数年前、パトリック・ジュースキントの小説「香水 – ある人殺しの物語」の映画化が発表された時、香水を手掛けている大手化粧品会社は、こぞって映画に便乗した新しい香水の企画話を映画製作陣に持ち掛けたが、どの企画もトム・ティクヴァ監督ににべもなく断られた。

ところがつい先頃、ティクヴァ監督の出身地ドイツにて、映画「パフューム – ある人殺しの物語」が先行公開されると、ティエリー・ミュグレー/ル・パルファム・コフレなる、豪華な香水のセットが映画と合わせて発表された。このコフレの登場は、欧米の香水ファン間で大きな話題を呼ぶと同時に、クリストフ・ロダミエル/Christophe LaudamielというIFF社の(米国最大の香料会社)若手調香師の存在を一躍世に知らしめた。というのも実はこのコフレが、ティエリー ミュグレー パルファムスの発案によって誕生したのものではなく、クリストフ・ロダミエルがパトリック・ジュースキントの小説に取り憑かれる様にして、6年の間にこつこつと創ってきた香りのコレクションだったからだ。つまりこの映画が作られたおかげで、ロダミエル作の「香水 – ある人殺しの物語」のストーリにまつわる香り達が、まさに期を熟して日の目を見るかたちなったわけだ。

ジュースキントの小説の映画化が発表されると、クリストフ・ロダミエルは、真っ先にティエリー・ミュグレー パルファムスの社長、ヴェラ・ストゥルビ女史と会うことにした。時流やマーケティング ストラテジーに決して惑わされることなく、革新的な傑作を創ることで世界的に評価の高いストゥルビ女史は、ロダミエルの抱えてきたいくつもの香りを全て嗅ぎ終わると、即座に彼のアイデアを具体化することに全面的な協力をすること決めた。ミュグレー社のバックアップを取り付けたロダミエルは、彼の恋人であるドイツ人のクリストフ・ホーネッツの助けを得て、トム・ティクヴァ監督に香水の企画をドイツ語でプレゼンしたところ、今まで全ての映画関連商品の企画を断ってきたティクヴァ監督から、賞賛を受けるという幸運に恵まれて、この企画が実現することになった。

僕が初めてロダミエルと出会ったのは、3、4年前のことになるが、当時彼が夜遅くまでIFFの研究室に籠って、自分個人のプロジェクトに没頭していた頃のことを思い出す。海のものとも山のものともつかない様々なアイデアを、何時間にも渡り熱っぽく語ってくれたが、その中の一つがこうして作品として世に発表されるのを見るのは、友人として誇らしい気持ちだ。