『合成香料は骨で、天然香料は身(肉)である』という事を言ったパフューマー(調香師)がいます。これは、ある意味で的を得た表現だと言えるでしょう。『100%ナチュラル』、つまり天然香料だけを使ったものが最高などということは、少なくとも香水ではあり得ない事です。まともなパフューマー(調香師)なら、天然香料の魅力は合成香料が合わさり、初めて最高の魅力を輝き放つことを充分に理解しています。また、合成香料によって初め生まれたノートというものも数限りなくあります。つまり調香の可能性と技術というものは、合成香料の登場により格段に進歩したわけです。

この数年で欧米の香水市場にもナチュラル志向の波が多少押し寄せてきています。注意してみると、「天然」という言葉を声高らかに唱っているは、アマチュアの香水作りか小さい香水メーカーの場合がほとんどのようです。ナチュラル志向を一概に批判するつもりはありませんが、「合成香料は天然香料に劣る」というような、そもそも比較しても意味のない事をヒステリックに喚き、天然信奉を押し広めることに躍起になる輩が増えてきているのは閉口します。

こういうことをアジっているのは、自称パフューマー(調香師)の場合が多く、半ば被害妄想のようなトーンで合成香料を諸悪の根源と決めつけているのを見ると気の毒な感じにすらなります。彼等を弁護するつもりは全くありませんが、被害者のような気分にならざるを得ない状況が存在している事は確かです。一流の香料企業に所属していないパフューマー(調香師)にとっては、手に入れられる香水の原材料、つまりフレグランス(香料)の種類が非常に限られている上、比較的入手の容易な天然の原材料の場合は、それが表向き純天然だと言われていても、実は合成香料や他の不純物が混ぜられている場合が多いのです。その反対に魅力のある合成香料とか、特殊なアクセントをつけるのに不可欠な合成香料というものは、往々にして入手が不可能だったり、入手ができたとしてもそれが新鮮なもの(合成にも鮮度というものがあります)なのかどうかがわからない場合がほとんどです。

南フランスのグラース(Grasse)というのは、優れた香水の原材料のメッカのように思われていますが、少し以前までは、ほとんどのグラースの香料会社が純天然と偽り合成香料を混ぜていいたという事をどれだけの人が知っているのでしょう… 私がニューヨークで時々世話になるユダヤ人の歯科医は、治療だけでなく日本語も上手なのですが、治療費があまりに高いので、ある時南フランスを旅行する際に現地で治療をしてもらうことを考えた事がありました。その歯科医に、レントゲン写真をフランスに持っていきたいという事を伝えたところ、「いいですよぉ。でも、南フランスは嘘つきばかりだから、気をつけないとボラれるちゃうよ。」と流暢な日本語で言っていた事を思い出します(笑)。

続く。。。