長男が生まれたばかりの頃だから、8年前の写真だ

変なツーショット(スリーと言った方が正しいか)だが、中央に写っているのは、今やゲランの5代目調香師のティエリー・ワッサーだ。ゲイの彼にとり、子供を持つということは、全く考えられないという話を聞かされたことがあった。彼のどことなくぎこちない表情は、そのことを物語っているのだろうか。そういう自分も、どこか釈然としない面持ちだ。43歳にして、初めて父親になることの戸惑いだったのか…

昨年の暮れにつれあいが、ティエリー・ワッサーに託され、イディールとゲラン・オムをパリから持ち帰った。「ノビに、よろしくと言っていたわ。」 そう言えば、その少し前にも、あるジャーナリストからティエリーが宜しく言っていたと聞かされた。どちらにも、「あぁ、そう。」と言っただけだった。彼から贈られたイディールとゲラン・オムは、箱が開けられることのないまま何処かへ消えてしまった。

昨年は、自分の香水と調香師へ対する興味が著しく低下した一年だった。景気の悪化により、今まで隠れてしまっていた事がはっきりと見えてきたせいだろう。一言で片付けるなら、今後調香師の需要は、減少することはあっても増加することはないだろうし、給料の面では今までのような特別待遇もなくなり、一般職と同じようなレベルになってくるだろう。有名なファッションデザイナーに匹敵するような「スターパフューマー」が、いつか出現する時代が来るだろうと期待していたのだが、全くの幻想に過ぎなかったようだ。

今後もゲランは香水の王様で在り続けるのだろうが、所詮は香水、心地良い香りがすればそれで充分なもの。誰がそれを調香したかはどうでもよい。トヨタ・カローラが、トヨタ自動車株式会社内の誰によってデザインされたかを知る必要が無いのと同じようなことだ。しかも自動車と比べたら、香水なんていうのは全く重要性の無いものだから、スターパフューマー云々などとは戯けたことだろう。

何はともあれ、タイミング良くフィルメニッヒとおさらばでき、ティエリー・ワッサーというのは何とも幸運な奴だ。