Scent - Page 5

ある辞表と世界香水ガイド

このところ、香水に関する投稿があまり無く寂しい気もするが、景気が悪いと面白い話も無い… というよりも、人員削減とか、今まで数年かけて積み上げてきた素晴らしい計画が一夜にして消え去ってしまったとか、今後の香水業界があまり面白くないようなことばかりが聞こえてくるので、日本のデザインとか建築を眺めていた方がずっと楽しいのである。

単純な話だが、景気が悪くなっても余程のことがない限り、人は洋服を着て、風呂に入って、家に住むわけだから、デザインということは常に存在し続けるのである。それとは反対に香水は奢侈品に過ぎず、特に日本においては非常に消費量の限られたものであるから、存在することの必然性のようなことを考えると虚しくなるばかりである。

そんな折、ちょっと元気の出る香水がらみのニュースをふたつ。

ひとつは、日本では(当然の如く)知られていないが、このブログでも時々名前の挙る現在世界で最も注目されている若手の調香師が、一昨日、「自由」を追い求めるという理由で所属していた大手の香料会社に辞表を提出した。メディアへの正式な発表はまだ先のことなので名前は伏せておくことにするが、彼の勇気を大いに褒めたたえたい。香水業界の今後を根底から変えることのできる調香師がいるとすれば、彼の他にはほとんど見当たらない。

もうひとつは、今年の初めに欧米の香水ファンの間で大きな話題になった、「匂いの帝王」ことルカ・トゥリン博士とその奥様であるタニア・サンチェス女史が出版した、世界で初めての本格的な香水のガイドブックの日本語訳が、12月5日に発売となる。題して『世界香水ガイド☆1437』、原書房からの出版。原文の非常に巧みな文章を考えると日本語訳は非常に困難であったはずだが、それを押してまで香水のマーケットとしては取るに足らない規模の日本において訳本が出版されるというのには少々驚かされた。

オリヴィエ・ポルジュの「嘉永六年」

Olivier Polge

日本の香水のマーケットについて調べているうちに、江戸の鎖国政策をふと連想した。

消費者が日本の外で起こっていることを知らないでいられる状態や、外から入ってくるものや情報が著しく限られている状況を作っているのはいったい何なんだろうか。

厚生労働省の規制というのもあるだろうが、他のいくつかの要因も加わって、一種独特な環境が出来上がっているように思える。

暫く、新しい香り/匂いをつくることに関わる興味が失せていたが、久しぶりに新作への意欲が高まってきた。

テーマは「嘉永六年」。調香師はジャック・ポルジュの息子で、最近はケンゾーパワーを手掛けたオリヴィエ・ポルジュに頼もうと考えている。

オリヴィエ・ポルジュとは、数年前にシンガポールでの展覧会でコラボレートする予定でいたが、主催者側の予算問題の為にそれを果たせなかった。その時に「非常に残念だ。いつか一緒に仕事をできるのを楽しみしている。」と言っていたので良い機会だろう。

父親の引退後に、オリヴィエ・ポルジュがシャネルを引き継ぐことになれば、彼とは仕事をすることはできないだろうから、今のうちにやっておかないと後悔することになるかもしれない。

先ずは、昔好きだった「嘉永六年六月四日」を、彼に聞かせることから始めよう。

下克上:高砂香料の野望2

昨日、久しぶりに調香師/パフューマーに関する投稿をした。クリストフ ロダミエル/Christophe Laudamielがニューヨーク近代美術館に於いて、デザインや建築に関わる内容の講演を行った時のビデオだ。これだけこのブログに相応しい内容もそう滅多にはないだろう。

調香師の仕事ということを、デザインという観点から考え語れる調香師は、業界中どこを見回してもロダミエルぐらいしかいないと思う。最近、高砂香料がロダミエルに接近したという話を本人から聞いた。高砂香料は調香師だけでなく、他の人材も積極的に物色中のようだ。

景気が悪くなった時に、最もその煽りを受ける企業が一番注意しなくてはならないのは、企業内で最も有能な人間を他に奪われる事である。「蟻ときりぎりす」というふたつのタイプに分けるとすると、日本企業である高砂香料は典型的な蟻さんである。三大香料会社に比べ、高砂香料は長期的な展望を非常に大切にしてきている。逆に一番きりぎりす的(つまり目先の利益しか考えていない)なのはアメリカの企業であり、この景気の悪さが致命的な結果を招くことも考えられる。

高砂香料が今後のファインフレグランスの衰退を予測しつつ、全く新しいマーケットが形成されていくことを確信した上で人材獲得を計っているのだとすると、高砂香料とフィルメニッヒの激しいトップ争いを見れる日はそう遠くないのかもしれない。

Christophe Laudamiel: Design for the Invisible

There are hundreds of fragrances out on the market that bear familiar names like “Dior,” “Calvin Klein,” “Dolce&Gabbana” and so on. But there are only a handful of perfumers who are capable of creating the scents for theses brands. Christoph Laudamiel is one of these elite ‘noses’.

What makes Laudamiel very different from the rest of the elite noses is his broad and futuristic vision for perfumery. Unlike fashion, the world of fragrance is old fashion and formal. Innovative ideas and projects are hardly coming out except from this iconoclastic mind.

The video was taken at MOMA in April.

More information on Christoph Laudamiel @Seedmagazine.com

Olivier Polge’s Kenzopower

Olivier Polge
Olivier Polge

My generation of Japanese men tend to think fragrances are for women. I believe it’s the same mentality that makes hard-core surfers in Southern California frown on guys wearing cologne (Brahs in Hawaii use it, but that’s another story).

I have to make an exception. For the first time in my life, I bought a fragrance for myself today. I smelt Kenzopower yesterday by chance and simply loved it. A very talented young perfume at IFF called Olivier Polge (whose father is Jacques Polge of Chanel) has created the scent.

There are not many fragrances that appeal to the Japanese, and I can often tell whether a fragrance is going to work in Japanese market or not. Kenzopower will do great in Japan among both men and women.

Why did I like it? Kenzopower reminds me of the region where I went to high school, surfed, and dreamt of the future – the shoreline of my ‘soul city’ Kamakura.

(note: it doesn’t smell like ocean or anything related to it.)

Olivier Polge

photo of Olivier Polge: © 2006 Hajime Watanabe

Kenzopower by Kenya Hara

Although most Japanese don’t care about fragrances, last end of July, there was an event to announce the launch of Kenzopower at the former Tomyoji Temple in my hometown Naka Ward, Yokohama. Kenya Hara, one of the most prominent creative minds (and my favorite packaging designer) in Japan, worked on the packaging of this new Kenzo fragrance. Continue Reading

Gap

日本の香水好きの間でもフレデリック マルという名前は知られていると思う。ニッチ香水の王様だ。アメリカではバーニーズ ニューヨークというデパートの独占ブランドであり、共同ブランドとしてフレデリック マル アウトレイジャスという香水が昨年発表され人気を集めている。

2005年に発表されたショーン ジョンのアンフォーギバブルは今年も相変わらず好調、来年発売のアイ アム キングにも大きい期待がかけられているはずだ。

ニッチとメジャーを並べてしまったが、この二つの香水には共通することが一つある。どちらの香水もIFFが香りを作り上げ、そのオイルの供給元となっていることだ。因みにアウトレイジャスは、我が敬愛するソフィア グロスマンの作である。そして、ショーン ジョンの新作アイ アム キングは、再びIFFが香りを作ることになった。

昨年フレデリック マルがアウトレイジャスのために支払ったオイル代は二千ドルにもならなかったと記憶している。その後IFFの方に追加注文が入ったという話を聞かないので、まだアウトレイジャスの在庫は足りているのだろう。これはIFFにとっては、経理などの手間だけが掛かり全く商売にはならない注文である。フレデリック マルがディオールの創始者セルジュ・エフトレール・イシュの孫だということでもなければ、大手の香料会社がニッチブランドにオイルを供給することはほとんどあり得ない。

一方のショーン ジョン(エスティー ローダー)は、アンフォーギバブルのために毎年二百万ドル相当の量のオイルをIFFから購入しているようだ。IFFはショーン ジョンの新作アイ アム キングのオイル売り上げとして年間三百万ドル以上を見込んでいるということも聞いている。アンフォーギバブルの売り上げが、あのバーニーズ ニューヨークとフレデリック マルのコラボレーションであるアウトレイジャスの千倍以上だと思うと(非常に大雑把な計算だが…)、ニッチなどやっている事に意味があるのだろうかという気持ちになってくる。

しかしながらアンフォーギバブルが大口な注文だとしても、IFFのような大所帯で且つ世界的な企業にとり、年間二百万ドルで出来る事と言えば数名の調香師の年間の給料を払うことぐらいだ。何千人もいる従業員を喰わせていくことを考えるとちっぽけな売り上げである。ビジネスというのは大変ものだ。

Lancome ‘Catastrophique’ & Calvin Klein ‘Recession’

投稿タイトルは単なる戯言です。天災と不況のニュースばかりで、香水業界ももろにそのあおりを受けて崩壊していくのはないか… なんて思う今日この頃。

こんな時に元気の出る香りがあるのだろうかなどと思いいろいろな瓶を引っ張りだしてきたら、あるはあるはざっと見回しただけでも5、600本ありそうだ。貸し倉庫とスタジオに保管してあるのはこの数倍はあるはずだ。

保管してある香水の中には市販されているものなどひとつもなく、全て著名な調香師達によるオリジナルな香りばかりなのだが、20本ぐらい試したら嫌になってしまった。香水の匂いが嫌になった時にいつもする事というのは、「スーパーGalaxolide」の瓶を開けてじっくりとその香りを嗅ぐこと。やはり自分には、これが一番効くのだ。元気も出てきた。