Scent - Page 7

ラボラトリー モニーク レミー/Laboratoire Monique Rémy

いまどき南フランスのグラースが、世界の香水製造の中心地だと信じている人はいないと思います。事実というのは、実際は何のロマンも感じられない場合が多いのでしょうが、今日世界の香水業界の中心となっているのは米国のニュージャージー州なのです。マンハッタンの川向こうであるニュージャージーがどのような場所か御存知の方ならば、この事実が合成香料の需要の大きさを物語っている事をお分かりになるでしょう。

それでは、グラースは昔程重要な場所ではないのでしょうか? とんでもない! グラースから供給される天然香料が、今日ほど良質で純度の高かった時代は今までありませんでした。これには勿論技術の進歩ということもありますが、それ以上に「品質改善」という事に使命を抱いたモニーク・レミー/Monique Rémy という一人の女性の功績によるところが大きいのです。80年代のはじめにシャネルのケミストであったモニーク・レミーは、毎日のように手にするグラースからの「純天然」であるはずの天然香料に合成香料が混入されている事実に疑問を持った為、偽りのない品質の香料を自分で開発する決意を持ちました。彼女は、1984年にラボラトリー モニーク レミー/Laboratoire Monique Rémy(通称 L.M.R. )という香料会社をグラースに設立することにより腐敗したグラースの香料業界に一石を投じ、僅か10数年の間に世界最高の天然香料の供給元としての地位を築いただけではなく、グラースの香料業界全体の倫理意識の改善に成功したのです。

2000年に引退をするにあたり、モニーク レミーは自分の設立した会社の将来を慎重に考えた結果、当時世界最大の香料企業であったInternational Flavors & Fragrances Inc.(通称 IFF)に会社を売却しました。現在ラボラトリー モニーク レミーは、重要なクライアントのひとつであるシャネル/Chanelの為に特別品種のバラを栽培し、そのバラから採取される香料をシャネルにのみ供給していると言えば、シャネルの香水がどれだけ特別なものなのかお分かりいただけるでしょう。ジャン クロード エレナ/Jean Claude Ellena もエルメス/Hermèsの専属調香師に就任して以来、ラボラトリー モニーク レミーに頻繁に足を運んでいるようですから、エルメスだけの為に製造している天然香料があるものと思われます。高級ブランドにとり、ラボラトリー モニーク レミーのエクスクルーシブな原材料を使っているかどうかという事は、ブランドの格付けにも関わってくることなのです。エクスクルーシブな天然香料ではありませんが、天才ソフィア グロスマン/Sophia Grojsmanが創った一番新しいバージョンの(現在販売されているもの)100% LOVE®も、ラボラトリー モニーク レミーからの非常に高価な天然香料をふんだんに使っております。少し、自慢をしてしまいました…(笑笑)

続く。。。

天然と合成

『合成香料は骨で、天然香料は身(肉)である』という事を言ったパフューマー(調香師)がいます。これは、ある意味で的を得た表現だと言えるでしょう。『100%ナチュラル』、つまり天然香料だけを使ったものが最高などということは、少なくとも香水ではあり得ない事です。まともなパフューマー(調香師)なら、天然香料の魅力は合成香料が合わさり、初めて最高の魅力を輝き放つことを充分に理解しています。また、合成香料によって初め生まれたノートというものも数限りなくあります。つまり調香の可能性と技術というものは、合成香料の登場により格段に進歩したわけです。

この数年で欧米の香水市場にもナチュラル志向の波が多少押し寄せてきています。注意してみると、「天然」という言葉を声高らかに唱っているは、アマチュアの香水作りか小さい香水メーカーの場合がほとんどのようです。ナチュラル志向を一概に批判するつもりはありませんが、「合成香料は天然香料に劣る」というような、そもそも比較しても意味のない事をヒステリックに喚き、天然信奉を押し広めることに躍起になる輩が増えてきているのは閉口します。

こういうことをアジっているのは、自称パフューマー(調香師)の場合が多く、半ば被害妄想のようなトーンで合成香料を諸悪の根源と決めつけているのを見ると気の毒な感じにすらなります。彼等を弁護するつもりは全くありませんが、被害者のような気分にならざるを得ない状況が存在している事は確かです。一流の香料企業に所属していないパフューマー(調香師)にとっては、手に入れられる香水の原材料、つまりフレグランス(香料)の種類が非常に限られている上、比較的入手の容易な天然の原材料の場合は、それが表向き純天然だと言われていても、実は合成香料や他の不純物が混ぜられている場合が多いのです。その反対に魅力のある合成香料とか、特殊なアクセントをつけるのに不可欠な合成香料というものは、往々にして入手が不可能だったり、入手ができたとしてもそれが新鮮なもの(合成にも鮮度というものがあります)なのかどうかがわからない場合がほとんどです。

南フランスのグラース(Grasse)というのは、優れた香水の原材料のメッカのように思われていますが、少し以前までは、ほとんどのグラースの香料会社が純天然と偽り合成香料を混ぜていいたという事をどれだけの人が知っているのでしょう… 私がニューヨークで時々世話になるユダヤ人の歯科医は、治療だけでなく日本語も上手なのですが、治療費があまりに高いので、ある時南フランスを旅行する際に現地で治療をしてもらうことを考えた事がありました。その歯科医に、レントゲン写真をフランスに持っていきたいという事を伝えたところ、「いいですよぉ。でも、南フランスは嘘つきばかりだから、気をつけないとボラれるちゃうよ。」と流暢な日本語で言っていた事を思い出します(笑)。

続く。。。

Eugenio Recuenco: Making of Nina Ricci

美大の彫刻科と工芸科専攻の学生なら一度は経験したものに、撮影用の大道具・小道具の制作というアルバイトがありました。雑誌広告やテレビコマーシャルの華やかなイメージからはなかなか想像のつき難い、臭く、埃っぽく、様々の汚れのこびり付いた作業場で、搬入日の朝を迎えるというのが普通でした。撮影終了後、軽トラに粗大ゴミとなってしまった「作品」を積み込み処分するという最後の任務を待ちつつ、スタジオの隅で目を擦りながら、ぼぉっとした頭でこういう撮影現場を眺めたのを懐かしく思います。

The final cut

Yurakucho

70年代の後半から80年代の前半の学生時代に、通り道だったという便利さから、よく芸大の仲間達と有楽町で飯を喰ったり、飲みに行ったりしたものです。当時の六本木とは違った、どこかリラックスした雰囲気が好きでした。さぁ、今夜はナンパしまくるぞぉ、という意気込みではなく、一日の疲れを癒すような気分で立ち寄るのに都合の良い場所だったのでしょう。

最後に有楽町の駅を使ったのはどのぐらい前だったかはもう覚えていませんが、多分20年近く前のことでしょう。この写真には、私が見たことのない新幹線のような電車が走っていますが、その流線形とガード下の焼き鳥屋が立ち並ぶ風景が美しいものに見えてなりません。列車の車輪と線路の擦れる金属臭/焼き鳥/煙草の匂い達が織りなすハーモニーというのが懐かしくなります。

作家のChandler Burr/チャンドラー・バールが、「通りに漂よってくるうどんの香りが、たまらなく懐かしい」というメールを送ってきた事を思い出しまが(彼は日本に住んでいた事があるそうです)、日本でしか経験のできない香り/匂いというものを、調香師だけではなく香水業界のもっと多くの人々に知ってもらいたいと常々思っています。

GUERLAIN HOMME

Thierry Wasser

Thierry Wasser

Thierry Wasser

What is wrong with Guerlain to use such a photo of Thierry Wasser. Stiff and boring, just the opposite of how the man is. This is not good…

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ゲラン専属調香師ティエリー ワッサー/Thierry Wasserのプレス用の写真が、あまりにひどいのでびっくり。縁起があまりよろしくありません。ゲラン移籍第一弾となる「オム」も大分妥協してしまったような出来だという話を聞きました。少し先行きが心配です。

闘牛と香水

昨日は、corrida de toros(bullfight、闘牛)について思いを巡らせました。動物愛護的な観点から批判の対象になっているのも事実ですが、近年スペイン全体として闘牛の人気が落ちているのは、それだけの理由ではないようです。その背景にあるのは、若者の間での闘牛への関心が薄れてきている事実があるということを聞きました。闘牛がスペインを象徴するような側面を考えると、私個人としては残念に思えてなりません。ピカソが大変な闘牛ファンであった事はよく知られていますが、その他の多くのアーティスト達をも魅了し、闘牛や闘牛士をテーマにした作品も数多く創られた事を考えると、闘牛はひとつの文化遺産であると言えそうです。

栄枯盛衰は世の習いと言いますが、ここ2、3年のファインフレグランス市場の動きを見ると、ここにもいづれ終焉が訪れるのではないかという寂しい思いにとらわれる事があります。その業績と才能から、ファインフレグランス(Fine Fragrance)の業界では、しばしばピカソのような存在として語られる調香師ソフィア・グロスマン(Sophia Grojsman)も、ファインフレグランスの今後については楽観的というよりは、むしろ悲観的な見方をしています。今回ここで、その原因として考えられる事柄について考えていくことはしませんが、ソフィア・グロスマンがファインフレグランスの未来として頻繁に挙げる二つの点を紹介することにします。

ひとつは、香水とかコロンによって香りを纏うよりも、石鹸やシャンプーで同様な効果を得る事の方が、今後の主流になっていくだろうということです。実際アメリカなどでは、香水の売り上げは頭打ちになっており、それに対し、特に若い人々の間でデオドラント商品の売り上げが上昇していることと相まって、ボディーウォッシュ用品の比重も市場で大きくなってきています。ソフィア・グロスマンは、石鹸類の香りだけでなく洗濯用洗剤の香りというものも、次第に香水とかコロンに取って代わっていくだろうと言っています。

もうひとつの点は、香水そのものに使う香料が、フレグランスからフレーバー(食品香料)に移行していくだろうということです。世界的に合成香料だけでなく天然香料も含めたものの、人体や自然に対する弊害が必要以上に危惧される傾向というのは、今後大きくなっていくだろうということに対し、食品香料はそもそも人の体の中に取り込まれるものである故にもともとの規制がずっと厳しく、人々の不安のレベルというのはずっと低いものだということをソフィア・グロスマンから頻繁に聞かされます。こういう事実とは直接に関係がなかったようですが、10年程前にIFF(International Flavors and Fragrances)ではなくフィルメニッヒ(Firmenich)に於いて「飲むことも可能な」香水が、カルバン・クライン(Calvin Klein)の香水の為に試験的に作られたりもしています。これがフレーバーだけで調香された香水であったことは間違いないでしょう。

そうは言うものの、ソフィア・グロスマンがこだわっているこの2点を踏まえて、ひとつ楽観的な気持ちにさせられる事があります。今後のファインフレグランスの展開というものは、伝統的な香水のイメージとは懸け離れたものに聞こえるかもしれませんが、これは日本の香料メーカーと調香師の未来には有利に働くものなのではないでしょうか。海外大手のフィルメニッヒとIFFの両社とも、トイレタリー部門において世界的な活躍をしているのは日本人調香師であると聞いています。理由は分かりませんが、実生活に密接な関わりのある分野での香りということに、日本人の鼻が力を発揮するのだと思っています。香水やコロンといった概念に捕らわれることなく、クリエイティブであり続けることの方が、業界自体にとってもずっと素晴らしいことなのだと思うと、むしろ今後の香料業界の展開が楽しみです。

調香師ティエリー・ワッサー香りのコフレ/Thierry Wasser’s coffret

調香師ティエリー・ワッサー(Thierry Wasser)のゲラン(Guerlain)専属調香師への就任が、予想以上に早く発表されました。楽しみです。これを記念し、今までにティエリー・ワッサーが、私のアートプロジェクトの為に手がけたいくつかの香りをセットにした、香水コフレでも作ろうかと考えています。佐賀町エキジビットスペースに於いて、ふんだんに散布したシュガーマウンテンはもちろんのこと、「恐怖の壁」という名前の香りやら、男前な彼の自画像として創らせた香りなど一風変わったものばかりですが、私が何故ティエリー・ワッサーの才能を確信したかということが充分に理解できるものばかり。

Thierry Wasser

(ピンぼけしていますが、懐かしい写真です。5、6年前でしょうか… ティエリー・ワッサーが、まだニューヨークにいた頃のものです。)

Perfumers(調香師の仲間達)

私の様々なプロジェクトに参画してくれた香水調香師達(ファインフレグランス パフューマー)の中で、特にお気に入りの6人の調香師達それぞれについて、個人的な感想を求められたことがありました。今日ちょうど2年振りにその記事を目にしたので、改めて読み返してみたところ、割と的を射たことを言っているなと、ひとりで笑ってしまいました。英語ですが、辞書を使ったりオンラインの機械翻訳を使って読んでみてください。世界を舞台にして香水を作っていきたいという方。。。これからまだ暫くは、本場の香水業界の仕事に関わる為には、英語とフランス語が中心に物事が進んでいく環境に身を投じなければならない、という事は覚悟しておいた方が良いでしょう。

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Exactly two years ago, I was asked by someone to describe each perfumer I had worked with. Have my views changed in two years? Not really.

ソフィア・グロスマン/Sophia Grojsman – There are so many things that I want to say about her. The article on Sophia in the popular perfume blog Bois de Jasmin describes the perfumer very well. In short, Sophia is a very warm person, a dynamo, and an absolute genius!

アルベルト・モリヤス/Alberto Morillas – Had I only known his creations on the market, I wouldn’t have asked him to create scents for me. I was simply drawn into his personal creations and ideas that didn’t end up on the market. What makes him unique is having a very strong style of his own and being versatile at the same time. He is wild at heart, fun to be with, workerholic, and he really loves women. I think we have a perfect recipe to be a great perfumer here.

クリストフ・ロダミエル/Christophe Laudamiel – 4 years ago (so, it’s 6 years ago.), when I first heard about a young talented perfumer with “a red Mohican,” I knew he was meant for my projects. There is a charismatic woman like Sophia in the industry, but most others look too conservative and uptight. After all it’s a luxury business, and I want to see more colorful guys like Christophe in the industry. However, that’s not the most important thing about him. The most striking thing about Christophe is his extremely innovative ideas – he is a scientist and an artist at the same time.

アニック・メナルド/Annick Menardo – As Luca Turin believes, this is another genius. She is extremely intelligent, but a bit difficult. I am madly in love with her creations, especially the one that didn’t end up on the maket called “MADONNE.” I don’t understand why no one has taken it.

ティエリー・ワッサー/Thierry Wasser – An international man of mystery… a great guy with so much talent, but so elusive to the point it’s too difficult to describe him. He is handsome and stylish, but that has nothing to do with his talent. I worked with Thierry most frequently since he understood my ideas very quickly. He is a very artistic person himself in a way classical musicians are. His powerful perfumery balanced very well with the style of my art.

ロク・ドング/Loc Dong – Loc is another ‘different kind’ among the young perfumers today. He is ambitious [good], doesn’t think he is an artist [interesting], Asian [Yes!], and might be a genius [we’ll see]. Loc still doesn’t have many solo creation under his belt, but his unique style is getting a lot of attention in the industry. I would say he will be the first Asian perfumer to be as prominent as Cavallier and Morillas in the future.

I was also asked to assign each perfumer a single perfume note that I felt best represented their personalities. I thought it was kind of a boring question and decided to give each perfumer a theme or a mission.

ソフィア・グロスマン/Sophia Grosjman: Essence of women, or Mother

アルベルト・モリヤス/Alberto Morillas: Scent for an elegant and wealthy European woman who spends time in New York City during the weekends

クリストフ・ロダミエル/Christophe Laudamiel: A Night at the Opera

アニック・メナルド/Annick Menardo: The Virgin

ティエリー・ワッサー/Thierry Wasser: He would be perfect to revamp a brand like Guerlain. (I first said this more than five years ago.)

ロク・ドング/Loc Dong: n/a (I didn’t assign him a theme since I was working on a project with him at that time.)

(By the way, LVMH/Guerlain will announce their new perfumer early next month.)