WHAT WE DO IS SECRET - Page 41

our profession is based on the notion of secrecy

ソフィア・グロスマンとティエリー・ワッサーによれば…

これからの調香師はトイレタリーが重要な分野になってくるだろう。ファインフレグランスの調香師の需要はこの2年間下り坂だが、ビュティーケアとトイレタリーは調香師が少々不足しているという話を聞く。調香師なら今後は、ファインフレグランスだけでなくトイレタリーもどんどん手掛けるようになって欲しいし、オールマイティーな調香師が一流だという時代が来るというふうに感じている。

世界的に知られているダウニーの柔軟剤の中でも、長年ベストセラーを誇るエイプリルフレッシュの香りをつくった調香師が、かのソフィア・グロスマンだということはほとんど知られていない。ソフィア・グロスマンにとりダウニーはランコムのトレゾアと同様に誇りに思っている仕事だということを聞いたことがある。ソフィア・グロスマンと話をしていると、フレイバーとトイレタリーに関連する様々なアイデアの話題になることが多い。ファインフレグランスの調香師がもっと目を向けていかなくてはならない分野とのこと、まさに同感だ。

ソフィア・グロスマンが、”He is a good kid…” と評しているゲランの調香師ティエリー・ワッサーは、トイレタリーの調香師についてこう語ったことがある。「ファインフレグランスの調香師はファッションの世界と関わりがあるおかげで注目を受けるが、実のところ香りを操る腕前においては、優れたポーカープレヤーのようなことをしているトイレタリーの調香師にはかなわないよ。」ティエリー・ワッサーによればファインフレグランスというのは、何もない白いキャンバスに蝶よ花よという世界を描ければよいが、トイレタリーの調香師はアンモニアのようにひどい匂いがする様々な化学品の上に綺麗な世界を作り上げなくてはならないので、ファインフレグランスの調香師よりも遥かにテクニシャンなのだそうだ。

HN House by Shunsuke Uemoto


Photo © Toshihiro Sobajima
 
A reinforced concrete house covered with “shou-sugi-ban” (burnt cedar) siding — the ultimate in luxury and durability. There are a few more unique things about this house designed by Shunsuke Uemoto – a ‘crevasse’ opens through the top to the bottom in the middle of the house, the master bedroom and bathroom are located in the basement while the kitchen and dining room are on the third floor, and therefore the house is equipped with an elevator Continue Reading

エバリュエーターについて

香水のエバリュエーターとは、どういう仕事をする人達なのだろう。

調香師同様に、世界のトップクラスのエバリュエーターのほとんどは、三大香料会社に所属している。調香師をアーティストに喩えるなら、エバリュエーターというのはアートディーラーかギャラリーである。エバリュエーターと調香師達が所属している香料会社というのは、アートの世界全体に喩えればよいだろう。ここで言うアートとは、古典やモダンアートは含まず、『現代』アートに限った喩え話だということをことわっておこう。フィルメニッヒとジボダンが、それぞれヨーロッパの現代アートの世界で、IFFはニューヨークのアート界ということにでもしよう。ロレアル、コティ、LVMHなどの抱える様々な有名香水ブランドのひとつひとつはアート作品を購入することが趣味のアートコレクター達だと思ってもらえばよい。

現代アートの世界では、アートディーラーやギャラリーに無しでは、アーティストの作品の価値が云々されることはない。いくらアーティストに才能があろうと、所属するギャラリーが無い状態では、世間にそのアーティストの作品に価値があるとは思ってもらえないのだ。いわゆるアートコレクターという人間は、アートディーラーやギャラリーが推薦するから作品を買うのであり、アートコレクター自身がギャラリーに属していないアーティストを探すというようなことは決してあり得ない。アーティストというのは、アートディーラーやギャラリーが認めてくれて初めて「作品」という商品を創れるわけだ。

アートディーラー、ギャラリーという比喩から、エバリュエーターという謎めいた仕事を少しおわかりいただけただろうか? ほとんど知られていない存在かもしれないが、調香師の才能を生かすも殺すもエバリュエーターの腕次第ということが想像できると思う。世界的な調香師であっても、エバリュエーターの助け無くしてヒット作品をつくることのできる調香師はほとんどいない。たとえ天才といわれる調香師が手掛ける香水でも、エバリュエーターがその才能を最大限に引き出し、エバリュエーターがクライアントの有名ブランドにその香りの良さ強くアピールした上で、初めて世界的に売れる香水が誕生する。エバリュエーターというのは縁の下の力持ちであるだけでなく、調香師の才能を操る名手であり、香水のトレンドを的確に予測する才能も持ち合わせている。当然のことながら、一流のエバリュエーター嗅覚力は、調香師と同等かそれ以上になってくる。

専属の調香師を抱えているゲランには、当然ゲラン専属のエバリュエーターが存在している。もしティエリー・ワッサーがこの先良い香水をつくり出せないとしたら、私としてはエバリュエーターの才能が充分でないとしか思わざるを得ない。

私の知る限り、現在エバリュエーターを必要としない調香師はジャック・キャバリエぐらいだ。彼は、エバリュエーターと調香師の両方を兼ね備えた珍しいタイプの調香師である。