WWDIS Blog - Page 85

ここでいうパフューマー(調香師)とは

パフューマー(調香師)に関して説明の不十分な点があるようなので、少し補足説明をいたします。

このブログでいうパフューマー(調香師)というのは、ファインフレグランス(いわゆる香水のこと)の調香をする技術者というよりは、デザイナーのような感覚と匠の精神を兼ね備える「香りのアーキテクト」と表現した方が適切でしょう。

この数年でファインフレグランスの世界もフランシス クルクジャン/Francis Kurkdjian、クリストフ ロダミエル/Christophe Laudamielといったクリエーターとして強い自己主張ができる若手調香師の台頭により少しづつ変化しつつあります。彼等のような若手達は、それ以前のパフューマー(調香師)にはなかった、しばしば人気ファッションデザイナーに見受けられるようなスター的な側面を持っています。

このブログで特に焦点を当てているのは、こういったファインフレグランスの世界を今後変えていってくれるであろうパフューマー(調香師)なのです。「調香師が目立って何が悪い」というのは私の口癖ですが、その気持ちはこのブログを立ち上げる目的となったメイド バイ ブログという香水企画プロジェクトにも反映されているわけです。

残念ながら現在の日本のファインフレグランス界には世界をリードできるだけの経験と力が全くありませんので、私が以前に述べたような世界的な日本人の調香師の出現というのも欧米のマーケットでの活躍が鍵となってくるはずです。これは半世紀前の日本のファッションの世界と少し似ているかもしれません。

ファインフレグランス界の高田賢三/Kenzo、三宅一生/Issey Miyakeの出現を楽しみにしながらこのブログを続けています。

*****

2年程前に、クリストフ ロダミエル/Christophe Laudamielの大きな記事がニューヨーク・タイムズに掲載されました。ここにあるクリストフの写真が日曜版雑誌のページ全面に掲載される扱いだったと言えば、パフューマー(調香師)という仕事がかなり世間に知られてきていることがお分かり頂けるでしょう。この記事が掲載される数ヶ月前にクリストフの事をブログに書きましたので、それも是非御覧ください。

A stripped-down beauty

When I was a kid in Japan, I didn’t know Ted Turner was a businessman. I thought his job was to helm racing yachts. Courageous was my favorite yacht – it had the most beautiful form among all the different kinds of racing crafts. I thought, and still think, the most compelling stripped-down aesthetic exists in yacht racing.

I hardly wear a fragrance at all but enjoy smelling fragrance raw materials. Lately I have been intrigued by a musk molecule that is a little different from other musks. I started to wear it at 0.8% concentration level this summer. It smells like wind over the deck of a carbon/Kevlar® racer and whispers in my ear, “This beauty is light and fast, dangerous and fun!”

*****

私がまだ十代の頃に、世界的なヨットレーサーとして活躍していたCNNの創始者テッド ターナーのことやら、最近執心の新種のムスクに感じること。

パフューマー(調香師)になりたい 3

最近はこのブログの読者の中にも、これから大学や専門学校に進もうという若い方がいらっしゃるようなので、今回はパフューマー(調香師)になるのにはどのような進路があるかを考えてみましょう。

先ずこのリンク( http://www.airspencer.com/essay.html )を御覧ください。で述べられている「化学系か薬学系の大学を卒業していること」というのは正攻法です。日本の企業に入社を希望する場合は、特に強くお勧めします。語学に自信があり資金も何とかなるという場合は、で述べられているイジプカ/ISIPCA (Institut Supérieur International du Parfum, de la Cosmétique et de l’Aromatique Alimentaire) に入学するのが最良の方法でしょう。最近はイジプカの入学競争率が高いようですが、世界を舞台に活躍したいという場合の手堅い進路であることを考えると当然の事でしょう。

ひとつ知っておいて頂きたいのは、仮にイジプカを卒業できても、ジボダン/Givaudan、フィルメニッヒ/Firmenich、IFF/International Flavors and Fragrancesに最初からパフューマー(調香師)として入社できる事はまずあり得ないという点です。これらトップの香料会社で調香師として働く為には、更に香料会社専属のパフューマリースクール(フィルメニッヒは学校を持たないので、ベテランの調香師について研修という形になる)に於いて、更に1年から2年の勉強を続けなくては使いものになりません。更に厳しい点は、これらの香料会社に入る場合、いわゆる求人広告などから採用されるケースがほとんどない為、ネットワーキングと情報収集に長けている事が重要になってきます。

ジボダン、フィルメニッヒ、IFFのパフューマー(調香師)になるという事は、調香の世界のトッププレーヤーになる事に他なりません。野球で言えば大リーグの選手になるようなものなのです。頑張ってみてください。

Ambroxan と Ambrox その2

先週、AmbroxanとAmbroxについて話しましたが、その二つの香料の違いについて、パフューマー(調香師)クリストフ ロダミエル/Christophe Laudamielが説明してくれた内容をまとめてみましょう。

ここに、C16H28Oという同じ分子式を持ちながら、構造が異なる二つの分子があるとします。ひとつをDと呼び、残りの一方をLと呼ぶことにしましょう。DとLはともに香料分子であり、似たような匂いを持っているものと思われます(筆者は、Dの匂いを単独で嗅いだことがなく、クリストフはその点について触れませんでした)。クリストフ ロダミエルだけでなく、おそらく多くのパフューマー(調香師)は、Lの方が香料分子としての優れていると言うことでしょう。更に付け加えると、C16H28Oという分子式を持った異性体/isomer(分子式は同一だが構造が異なる分子、またはそのような分子からなる化合物を異性体)は他にもいくつかありますが(筆者がググッてみたところ17個出てきました)、香料として重要なのはこのDとLのようです。

すでに想像が付いた方もいらっしゃるかと思いますが、つまりこのDとLの違いが、AmbroxanとAmbroxの違いに関係してくるわけです。Ambroxanはその99%がLという分子で出来上がっているのに対し、Ambroxはその25%づつをDとLで分け合い、残りの50%は他の異性体/isomerで占められているそうです。先週も述べましたが、AmbroxanとAmbroxは非常に似通った香りを持ち、多分普通の人には区別がつかないのではないかと思われますが、正直なところその内容の違いには驚かされました。私が、DとLが似たような匂いを持っているのだろうと推測したのも、このようなことからです。

Ambroxanのストレートで強烈な印象というのは、その純度の高さから来るのだと思います。個人的には、Ambroxのどことなく「曇ったような」曖昧な部分がむしろ好きなのだという事をクリストフ ロダミエルに言ったところ、”make sense(それだったら、納得できる)”という答えが返ってきました。ジャック キャバリエ/Jacques Cavallierも同じような理由からAmbroxの方を好んでいるのではないでしょうか。

*補足*
AmbroxanとAmbroxの他に、Cetaloxというフィルメニッヒ/Firmenichの香料があるので触れておきましょう。クリストフ ロダミエルが以下のような二種類のCetaloxを教えてくれました。
Cetalox:およそ96%がDとLで占められている香料化合物。
L-Cetalox:99%がLの高純度の香料。Ambroxanと全く同じもののようですが、使われているL分子の製造法が違います。Cetaloxに使われているL分子は最初から最後まで完全に人工のプロセスで製造されているのに対し、Ambroxanで使われているL分子は、植物から抽出された香料を使って製造されるそうです。クリストフ ロダミエルによるとAmbroxanとL-Cetaloxが多少違う香りがするのは、残りの1%不純な部分の違いだそうですが、これは我々の鼻にはとても感じ取れるようなものではないのでしょう。

AMBROX (a registered trademark of Firmenich in International Class 3, 1979)
AMBROXAN (a registered trademark of Kao Corporation in International Class 1, 2007 – abandoned by by Henkel in 1984)
CETALOX (a registered trademark of Firmenich in International Class 1 and 3, separate filing in 1994 and 2006)

She’s back…

A late ’70s icon who was the inspiring muse of creative minds like Jean-Paul Goude and Issey Miyake is back with a new album Hurricane due out in October.

Anaïs Anaïs by Cacharel と Z11

Z11:エクスクルーシブな合成香料 その2(謎めいてエクスクルーシブなタイプ)
車の名前のようですが、Z11とはある香料分子に付けられた名前です。最近まではフィルメニッヒ/Firmenichのパフューマー(調香師)以外は、誰もZ11そのものだけの匂いを嗅いだことがなかったと言われています。特許期限が切れてから少なくとも10年は経つと思われるので、現在は他でも同じ分子構造の香料を作っている可能性はありますが…

ドライなウッディノートを持つZ11が、初めてそれとわかるような使い方をされた香水と言えば、1978年に発表されたキャシャレル アナイス アナイス/Cacharel Anaïs Anaïsでしょう。この香水が大ヒットをした後、フィルメニッヒに於いて他の香水の中にもZ11が使用されるケースが急激に増加したことは言うまでもありません。Z11は長年フィルメニッヒの「切り札」として、フィルメニッヒ専属の調香師だけが使うことのできた香料なのです。特許がまだ有効だった期間は、多分その呼び名すら知られていなかったのでしょう。

こういう原材料は『きゃぷてぃぶ』と呼ばれ、例えばジボダン/Givaudanものなら、ジボダンの調香師しかその匂いを知りません。そうは言っても、他の企業がジボダンの手掛けた香水をGC(ガスクロマトグラフ)にかければ、見たことのない分子があるようだという事には気が付きますので、例えば、「ジボダンはどうやら新種のムスクを持っているらしい」というような噂が、ジボダン以外の香料会社の調香師達の間に広まるわけです。(都合上この段落中カタカナであるべき部分が平仮名になっております。)

見えないものだけに、なおさら謎めいていて、どうしても知りたいという気持ちをかき立てられませんか?



“share the secret…”

Calone®

Calone®:エクスクルーシブな合成香料 その1(それほどエクスクルーシブでないタイプ)
前回は、ラボラトリー モニーク レミー/laboratoire monique rémyのエクスクルーシブな天然香料について少し触れましたが、エクスクルーシブな合成香料についても触れてみたいと思います。先ずは、それほどエクスクルーシブではないのものなのですが、出所が限られている香料ということで紹介します。

マリンノートを持つ分子として知られ、L’eau d’Isseyや他のアクア系の香水に欠くことのできない合成香料にCalone®(カロン)があります。現在の登録商標所有企業はフィルメニッヒ/Firmenich。その前はダニスコ/Daniscoでしたが、昨年ダニスコの香料部門をフィルメニッヒが買い取った時点でCalone®の商標もフィルメニッヒの方へ移りました。

Caloneという名前をつけられることになった分子が、ファイザー/Pfizerで発見されたのは1966年のことです。実際にこの分子が日の目をみるまでには大分長い時間があったことは、アメリカでの登録商標の申請が1983年になって初めてされていることからも明らかでしょう。”First use Apr. 9, 1980″ となっていますので、研究室の隅で14年間埃でも被っていたのでしょうか。「匂いの帝王」の主人公としても知られている科学者ルカ トゥリン/Luca Turin氏による、Calone®の簡単な歴史に触れた非常に面白い記事があります。

随分昔に特許期限は切れてしまっているので、中国やインドなどでも同じ分子を製造しているのかもしれませんが、例えばジボダン/GivaudanやIFF (International Flavors and Fragrances)の調香師達は、Calone®としてフィルメニッヒから仕入れたものを使っています。やはり品質の問題があるからでしょうか。しかしながらジボダンやIFFにしてみれば、自社製のもので全てがまかなえれば願ってもないことです。それぞれの研究開発部門はCalone®よりも優れた香料分子の発見に努めていることは間違いないでしょう。

続く。。。