オリヴィエ ポルジュ / Olivier Polge

オリヴィエ・ポルジュ : シャネル新専属調香師

OLIVIER POLGE

via International Flavors & Fragrances | Photo © Hajime Watanabe
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数年前、オリヴィエ・ポルジュがいずれ父の後を継いでシャネルの専属調香師になる可能性を仄めかしたが(記事参照)、その時はそうなったとしても10年先のことだろうと思っていた。先日7月5日にシャネルは、オリヴィエ・ポルジュを次期専属調香師として迎えることを発表した。話し合いから発表までに要した時間が3週間という驚くべき早さに、シャネルの機密保持への周到な配慮を伺うことができる。若干38歳にしてシャネルの看板を背負うに充分な力量と才能を持った調香師であることは疑いもないが、まだ5年ぐらいはIFFにいるだろうと思っていたから思わぬ早さの就任である。

シャネルがどのようなオリヴィエ・ポルジュの公式ポートレートを用意するのかが楽しみであるが、このオリヴィエ・ポルジュの写真は、フォトグラファーの渡邉肇氏(ホームページ)が7年前に撮影したものだ。写真が苦手なオリヴィエ・ポルジュが唯一気に入っているものであるらしい。以下は、この写真に関するオリヴィエ・ポルジュのコメントである。

I never like photographs of myself. They are often a bit too “cosmetic.” It feels like someone is trying to make me look like a movie star, and I am afraid I can’t live up to that. There’s nothing artificial about this one though, so that’s good. I look a bit serious, don’t I? I get tired of seeing people smiling all the time in photographs… If I had been able to choose, I would have stood further away from the camera, not right in front of it, with my hand in front so that I fade into the background…
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普通だけど凄い

「男は汗臭いのが一番、コロンなんか付けてるようじゃダメだね。」

二年前に『夏に一番の香水は?』という特集インタヴューを受けた時に、このようなコメントをして顰蹙を買ったことがある。この気持ちは、今でも基本的には変わっていないと思いたい… と、少し躊躇するような言い方になってしまうのには理由がある。先日御報告したが、この夏は、オリヴィエ・ポルジュの『ラノニム』(我が社の久々の新作)を毎日のように試着している。どことなく暖かい感じがある香りなので、夏向きというような具合に季節の限定されるタイプの香水ではないのだが、異常に蒸し暑い今年のニューヨークの夏に於いても、とても快適な香りなのが嬉しい。そう言えば、乾燥していたけど猛暑だった七月のローマで、この香りに惚れてしまったのだったけか… 以前に「世界香水ガイド」の著者ルカ・トゥリン博士が、『エスパフュームは、車の世界に喩えるなら、オートショーで目にするようなバリバリのコンセプトカーのようなブランドだ。』と述べたことがある。全くその通りである。エスパフュームでは、使い手のことは余り考えず、「未来」だけを見据えてきたが、今回は消費者のことを一生懸命考えている。新作『ラノニム』は、過去のエスパフュームのシリーズからは切り離された、私にとっての初めての『商品』になるだろう。

バリ島でのヴァケーションから戻ってきた親友が、先週末遊びに来た。元々はフィルメニッヒのエバリュエーターだった女性だが、現在はロレアルが抱える香水ブランド(サンローラン、アルマーニなど)の開発に関わっている。親友である彼女とは、日頃アートの話をすることはあっても、香水の話になることはまず無い。それが、先日はうちに来るなり、”Nobi, what are you wearing? You smell DIVINE!” と言い、私が何を付けているのかに興味津々だった。その前日まで、微かにあった疑問が、それでスッカリ吹き飛んだ。香水の世界に於いて、斬新だとか、最先端というコンセプトで香りを創ることに於いては誰にも負けない自信があるし、ドミニク・ロピオンのような調香師達だけではなく、フレデリック・マルやマイケル・エドワーズのような専門筋の間でもこのことを認めてくれる方々が多い。ところが、普通なんだけど抜群に良いものというコンセプトには、今まで縁が無かったわけだ。今回は、オリヴィエ・ポルジュのお陰で『普通だけど凄い』ということに、思い切り開眼することができ大感謝。もともとは、あのシャネルのジャック・ポルジュの息子で将来シャネルを継ぐ可能性大という不純な動機から興味を持ったのだが、2年前にケンゾーパワーに惚れ、折あらば… と、いう感じでいた。今回、この『ラノニム』の香りにすっかりやられてしまい、自分でも結構驚いている。奥が深いとは正にこのことだ。

この『ラノニム』、お値段の方は、12ドルぐらいに収まるよういろいろな面での検討をしている。オリヴィエ・ポルジュの抜群に素晴らしい香りがたったの12ドル、この部分だけは斬新で未来的かな? どちらかと言えば男性的な香りだという意見が周りであるが、個人的には、この香りは女性が着けるからかっこいいと思う。ちょうど、どことなくフェミニンなケンゾーパワーの好対照だ。内容成分はユニセックス用の香水として世界各国の安全基準に沿うようなものになっている。

L’ANONYME OU OP-1475-A

このところブログの更新を怠っている。久しぶりに本業(?)の香水企画に本腰で取り組んでいるからだ。新作ということでは6年振りになるのではないだろうか。今回は商品名を付けずに発表するが、『ラノニム(匿名)・ウ・OP-1475-A』という長たらしい呼び方で紹介されることになるだろう。後ろの部分のアルファベットと数字は膨大な数ある未発表の香水それぞれに付けられる登録照会番号のひとつだと思ってもらえば良い。この香りの調香師はオリヴィエ・ポルジュ。彼が得意とする洗練されて高級感に溢れる香りでありながら、非常にコンテンポラリーな点に惹かれて今回の新製品の発表に踏み切きることにした。このところ欧米は、ニッチフレグランスのルネッサンス。一年ほど前のインタヴューにおいて、「ニッチフレグランスは、映画に喩えるならB級映画」とやってしまい、他のニッチブランドから痛烈な非難を浴びたことがある。ニッチフレグランスは、香りの出来がB級のものがほとんどであるという意味で言ったのだが、お値段の方は超特級のものが多い。100ミリリットル以下の量で、日本円にして2万、3万というものがたくさんある。教養の無い成金が幅を利かすアメリカでは、値段が高ければ特別なものだろうということで、香りの完成度の低いことがオリジナリティだという錯覚に陥ってしまっているニッチファンが多いことに辟易している。今回の新作は、このような現状に一石を投じたいという気持ちもあるのだ。オリヴィエ・ポルジュと云えば現在最も才能のある若手調香師であり、次期シャネル専属調香師の可能性が囁かれている。そんな素晴らしい調香師の出色の逸品を、ニッチフレグランスだけでなく香水そのものの概念を覆すような価格に設定することに興奮している。陳腐な言い方かもしれないが、もっと多くの人に、いつまでも好かれるような素晴らしい香りを、誰もが躊躇せずに買えるような値段で提供するのが今回の目標だ。